それからふと、顔をあげた。

個室が借り切ってあることに、とりあえずほっとする。

枕元にある棚は綺麗に整理されていて、白い花が飾ってあった。

「あの、これ」

「ああ、見舞い客がそっと置いていった。
なんていうか、照れ屋だね、いつも受付でうちの看護師に渡していくらしいよ。
ここまで届けにきてくれればいいのにね」

「どんな人が?」

何故だろう。
心当たりもないはずなのに、心臓の奥がぎゅうと痛む。

「さぁ。私はそこまでは聞いてない。
明日にでも聞いてみるといい。
とりあえず、熱もないようだから、ゆっくりお休み」

そういうと、やはり忙しいのだろう。
女医さんは足早に出て行った。

私は身体を起こす。
あまり記憶を巡らせると頭痛が走るので、出来るだけ何も考えないようにして立ち上がり、そっと、カーテンを捲った。

夜だ。
空気が澄んでいるのか、東京なのに思いのほか星が見えた。

もちろん、東京タワーの明かりも。