デスクの周りに散らかっていたコピー用紙に、ボールペンでさらさらと何かを書き記す。
ジャックって左利きなんだ、と、どうでもいいことを思いながら、その様子を見ていた。

「もし、24日までに僕が帰ってこなかったら、ここに来てもらえますか?」

ちらりと見たそれには、アルファベットが書いてあったように見えた。

「分かった」

キョウはそれを受け取り、胸ポケットへとしまう。

「じゃあね、ユリアちゃん」

ジャックが私を見て、陽炎を思わせるような薄い笑顔を浮かべた。

何故かしら。

もう、二度と逢えない気がする。

胸がいっぱいになって言葉が出ない。

「またね、ジャック」

この言葉は、まだ、有効かしら。
また、ジャックに会えるかしら。

私は気の利かない言葉を一つ、搾り出すので精一杯だった。

次の瞬間。


パチリと指を鳴らし、笑顔だけを残してジャックが消えた。