「で、どうする?綾香。
私、付き合うよ」

私は自分の想像のままに口を滑らせた。
綾香の顔が、ぎくりと強張る。

噂には疎いけれど、想像力はあるほうだ。

綾香は実家にいながらキャバクラで働いていたと言う。
そして、このビルは弓下ビルと書いてあった。

つまり、弓下 綾香の父親が所有していたビルだったのだろう。
だから、この最上階は弓下の父親が使っていて、今は倒産した会社のものだったに違いない。

わざわざそこを使うということは。

あんまり考えたくないけれど。

私は首を横に振る。

どうしたって、ありえない話だと思うからだ。

うちの家族が平和すぎるから、だろうか?
否。
そうじゃなくたって、信じられない。

娘を食いものにしようとしている、父親が居るなんて。

私の思考を見抜いたのか。
綾香が薄く笑った。

この世の不条理を悟りきったような、10代に不似合いの大人びた笑顔に心が痛む。