「この極悪大魔王っ」

私が悪態をつくと、キョウが冷ややかな視線を私に向ける。

「ユリア?
大魔王じゃなくて、魔王様」

……そうでした。スミマセン。

大魔王っていったらオヤジのことになるんだから気をつけてよね、なんてキョウは場違いなことをぼやいている。

「ゆ、百合亜?」

そこでようやく綾香は私のことに気づいたようだった。

「あ。そうなの。
実は、ホストのエイイチロウと知り合いで。
どうしても放っておけなかったんだ。勝手に来て、その。ゴメンね」

やはり、知り合いにああいう現場を見られるのは嫌に違いない。
私は思わず謝った。

もっとも、そんな心のヒダなんて理解できないキョウは目を見開く。

「何を言う。
ユリアの頼みでなければ、アヤカを助けたりはしなかった」

「頼んでも助けなかったくせに、威張らないで。
綾香を助けたのは、ジャックよ?
Do you understand?」

「Yes,Ma'am」

キョウはほとんど条件反射でそう答えると、悪戯を咎められた子供のように肩を竦めた。

そのやりとりを見た綾香が、涙の溜まった瞳でくすりと笑う。

「百合亜って、学校で見るよりずっと面白いのね」


……い・い・え!!


私はため息をつかずにはいられなかった。
でも。
表情の固まっていた綾香が少しとはいえ、笑ってくれて、なんだか救われた様な気分になったのも、事実ではある。