そうして、くるりと踵を返して。
私は思わず言葉を失った。

助けたばかりの綾香の首筋に、思いっきり噛み付いている吸血鬼がいるんですけど……!!

そうだった。
ジャックは猫だけど、吸血鬼でもあったのだ。

綾香が幸せそうにうっとり瞳を閉じているのが見えたので、もう何も触れないことに決めた。

魔王様と付き合うのも、吸血鬼と付き合うのも、きっとどちらも大差ないくらい非常識に違いないのだから。


「無事でよかった」

なんて、優しい言葉を掛けるその口許が、赤い血液で汚れているのは許容範囲なのかしら。

「アヤカ、お前はどうしたい?」

ビデオテープを取り出しながら、はじめましての挨拶もなしに、キョウは唐突に綾香に声を掛けていた。

「どう……って?」

いきなり尊大な声を掛けられた綾香は目を点にする。

キョウは別段気にする様子もなく、上から目線で話を続ける。

「このビデオテープ。
首謀者のところに、文句を言いに行くのか。
それとも、泣き寝入りするのか」

「文句って!!」

綾香は目を丸くした。
助かったはずなのに、突然顔は青ざめ、震え始める。

「別に、このままでいいなら止めない。
ジャックだってずっと傍にいれるわけじゃない。
次に同じ目にあったら助からないと思ったほうがいいな」

冷酷な言葉を容赦なく浴びせる。