超常現象を目の当たりにした男たちの手が震え始めた。

部屋の中は、妙な緊張の糸を張り巡らされたかのような不穏な空気に染まっていく。

「ねぇ、アヤカは何処に居るの?」

赤頭巾が狼に「おばあさんの口ってどうしてこんなに大きいの?」と尋ねるくらいに無邪気な顔で、ジャックが男の一人に問う。

「……あ、あまりにもうっさいから、さっき風俗店に引き取りに来てもらったんだよ」

幽霊に遭遇したような、真っ青な顔をして男のひとりが震えながら答えた。

キョウが何もないあたりにゆっくりと瞳を凝らしている。
ああ、『過去見』をしているんだなと、分かってしまう自分に少しだけ自己嫌悪。

震え上がっている男たちは、化け物を見る目でこちらを見ていた。

……私も、化け物ってことかしら。

まぁ、人間だってバレルのも面倒なので、そう振舞うしかない。
私はキョウの背中から顔を出して、当然のようにその傍に寄り添った。

「あっちだ」

キョウは目に見えぬマントを翻すかのような、惚れ惚れする足取りで颯爽と歩いていく。
震える男の一人が、その手にケータイを取り出した。

ひょい、と。
キョウが指先をそちらに向けた。

指で拳銃を作るような、子供じみた仕草だ。

ただ、それだけで。

ケータイ電話が弾け飛んで、コンクリートの壁にぶつかって壊れた。

「ひ……ひぇええええっ」

ケータイが飛んでいく衝撃で、耳まで千切られたのか、男は血の滴る耳を押さえ震えていた。

ぎょっとする視線が集中する中、こうも優雅に歩ける秘訣って一体何なのかしら。

ジャックは気まぐれな猫そのままに、ふらりとキョウの数歩後を歩き始めた。

「これ、一つもらっていいかな」

と、人懐っこい笑顔を浮かべ、恐れおののいている男の手から拳銃を一つ拝借するのも忘れなかった。