怯える私を強引に引っ張って、キョウは飄々と足を進めていく。

緊張感ってものが分け合えるなら、今すぐごっそり分けてあげたくて仕方がない。私の足はもう、とてつもなく震えていて、歩くのがやっとの状態だというのに。

「キョウ……ヤダ。怖いっ」

私はもう、一歩だって足が進まない。

耳に響く銃声と怒号。
鼻につく硝煙の匂い。

耐えられる、ワケがない。

私は生身の人間だ。
こんなところで流れ弾にでも当たったら死んでしまうに違いない。

キョウは、今初めて気づいた、みたいな顔で足を止めて私を見つめる。
紅い瞳が、一瞬のうちに黒に戻る。

そうして、紅い唇で色っぽい笑いを浮かべた。

「ユリア、それって俺のこと誘ってる?」

……い、意味が分からないんですけど。

半泣きの私の髪を、キョウは半ば粗雑にくしゃりと撫でた。

直後。
彼はその黒い瞳を一層不遜な色で染め上げる。

「ユリア、俺を誰だと思ってる?」

「……魔王様」

私の答えに気を良くしたのか、キョウはその唇にいっそ淫靡とも言えるような笑いを浮かべた。

「正解。人間なんかに何が出来る?」

えーっと、知らないってば。
っていうか、私はその人間ですけど何か?