煙草とアルコールが混ざった匂いなのだろうか。
それとも、麻薬?

嗅ぎなれない危険を孕んだ悪臭に、頭痛を覚える。
キョウはハイキングにでも向かうような気軽さでさくさくと足を進めていく。
薄暗い廊下は私にとっては視界が悪いが、漆黒の暗闇ですら光を必要としないキョウにとっては、何の障害にもならないだろう。

でも、何処に行ったらいいのかしら……。

そう思った矢先。

「てめぇっ」

という、ドスの利いた低い声が響いてきた。
間違いなく進行方向から聞こえてくる。
びくっとした私は、無意識にキョウの手をぎゅっと握る。

そうか。

キョウは、ジャックの過去を見ながらここを歩いているのかもしれない。

「良い度胸してんじゃねぇか、コイツっ」

「アヤカは何処?」

ジャックの薄い声まで聞こえてくる。
もうすぐそこにいるのだろう。

「ねぇ、私やっぱり行くの怖いんだけど」

キョウの耳に囁く。
キョウは不思議そうに首を傾げた。

「ここに置き去りにする方が心配だ。
もう少しだから。こんなところで我侭言わないで、ね?」

いやいや。
私、我侭ですか?
もう少しで着くからこそ、怖いんですけどっ!

パァン
パァン

乾いた音が響き渡る。

……って、これ、もしかしなくても銃声ですよね?!