「もし、綾香じゃなくて私が浚われていたとしたら、キョウはどうする?」

先を急ぎたくなくて、ついそんな世迷言を口にしたことを許して欲しい。

キョウは一瞬唖然としたように目を丸くして、直後、ふわりと微笑んだ。

「すぐに浚いに行くよ。
それで、そいつらの代わりに俺が陵じょ……」

「えっと、ソレだと私。
助けてもらったことにならない気がするんだけど」

ろくでもない会話が続きそうで、私は慌てて言葉を挟む。
キョウは酷く淋しそうな瞳で私を見た。

う……。何かしら。
美形の淋しそうな顔って、心の奥に響いてくるからたちが悪い。

「そんなに俺以外の男に興味があるの?」

「ありませんっ」

どこをどう曲解したらさっきの会話がそういう結末に結びつくのか、私にはさっぱり分からない。

「大丈夫。俺より上手い男ってそうはいないから。
信じてくれていいよ」

えーっと。
私は何をどう信じていれば良いのでしょうか……。


私が言葉を失っている間に、キョウは瞳を閉じて神経を集中させていく。
その一瞬のうちにして緊張感を纏いあげる姿には感心すら覚えた。

長い睫。
眉間に僅かに寄る皺。

そんな一つ一つに、うっかり視線が吸い寄せられる。

次にキョウが瞳を開けたとき、それは燃えるような紅色となっていたので思わず後ずさろうとした。
だって、なんだかすごく凶悪な色に見えたんだもの。

でも、キョウは間髪入れずに私の手首を掴み、パチリ、と。
その指を鳴らした。

お約束の風が吹き、直後。


私はキョウと一緒にとある路地裏に着ていた。