残念ながら、まだ師匠の見つからない私としては、引っ張られるままにキョウについていく他ない。

玄関先でブーツを履いて、立ち上がる。
キョウは、どこぞの洋服売り場の店員さんよろしく、背中から私にコートを着せてくれる。

ああ、駄目。
こういうさりげない、でも端まで行き届いた仕草が、私の体温と鼓動を簡単に上げてしまう。

精神衛生上よろしくない、気がする。

うっかりうっとりしている私に、気づいているのかいないのか。
キョウは涼しい目元で笑って見せた。

だ、駄目だ。
半年も一緒に暮らしているというのに、全然慣れないんですけど。

あれかしら。
口を開いたときのド変態ぶりと、打って変わった普段の素敵な仕草とのギャップを目の当たりにして、私のハートは壊れかけているのかしら。

どっちかに統一してくれればいいのに、と考えかけて慌てて頭を横に振る。
駄目駄目。
万が一にも俺様ドS変態キャラの方に統一されたら、いろんな意味でついていけそうにない。

神様、やっぱりそれ撤回します。

「どうか、した?」

一人で首を横に振っている私を、キョウが訝しげに覗きこむ。
私は慌てて言葉を探す。

「えっと。
そうそう、怖いの。
綾香ってきっと変な人に捕まってるんだろうし……」

「ああ」

と言った途端、キョウがにこりと笑う。
あ、クリスマスプレゼントを朝からずっと楽しみに待っている子供の笑顔だ。

何故(なにゆえ)?