美味しそうなミートソースの香りに誘われて、我に返る。

軽いランチは、ミートソーススパゲティにパンプキンスープ、温野菜のサラダに焼きりんごのカマンベールチーズ添えだ。

「ユリア、眉間に皺寄ってるけど、大丈夫?」

「うーん……。
綾香のことが心配で」

パスタをフォークに巻きつけながらそう答える。

「アヤカって誰?」

初めて耳にしたかのように問い返してくるキョウに頭を抱えずにはいられない。

本当に、興味がないものには一切興味を持たないのね。
極端だわー。

「私の同級生。
で、ジャックの飼い主で、ジュノのお客さん」

「へぇ、やたらと狭い世界に共通点があるもんだね」

感心したようにキョウが言う。

「うん、確かにね」

そう言われてみればそうなんだけど。

「ホストクラブ通いでお金を使い果たして借金しちゃったみたいなの。
で、今多分、その借金取りに捕まっちゃってるんだわ」

「どうして?」

「返せないお金はカラダで返せって……」

げんなりしてため息をついているのに、何故かキョウの瞳がキラキラと輝きを帯びてくる。

「ねぇ、ユリア。
折角だからさ、日本の国家予算相当を今すぐ貸してあげる☆」

……とびきり甘い笑顔と艶やかな声でそんなこと言っても、駄目ですよー!!
怖ろしい。
あの、魔王様。企みがすべてその笑顔の中に溢れてますけど?

「うん、キョウからは何があっても一円たりとも借りないことにするね」

私もそれに、対抗できるほどの笑顔を無理矢理作ってそう答えた。