「キョウ、コーヒー淹れようか?」

まだ本に夢中になっている、っていうかなにやらぶつぶつ呟いてさえいるキョウにカップを片付けた私は声を掛けた。

「いらない。
遅くなったけど、ランチ作ってあげるね」

キョウは本を閉じて、そういう。

「ねぇ、夢中になって何読んでるの?」

キョウは嫣然とした笑みを浮かべる。

「だから、ユリアを幸せにしてあげられる本って言っただろう?
クリスマスをお楽しみにね。それとも、待ちきれない?
明日でも俺は構わないけど」

……やっぱり聞くんじゃなかった。

どうも私には学習能力が少し足りないみたい。

「クリスマスまで、待つわ」

不幸はきっと、一日でも遅く来たほうが良いのだ。
私は世の多くの子供たちとは真逆の感情で、そう答えた。

――つまり、クリスマスが少しでも遅く来ることを祈って。

「良い子だ」

と、歩きざまに私の額にキスをしてキョウはキッチンへと向かう。

私はだらりと行儀悪くソファに寝そべる。
頭の中は綾香のことで一杯だった。

確か最初はキャバクラに行っていたはずだった。
家計を助けるために。
それがいつの間にかホストクラブ通いにハマって……。
ついには、危ないところでお金を借りて返済を迫られている。


とても、クラスメイトの話だとは思えないくらい、現実離れした物騒な話に私は眉を潜めずにはいられなかった。