私はそのままキョウの手を引いて、デパートを飛び出した。

「ユリア、外は寒いよ?」

なんて優しい声を出されても、騙されてはいけません。

そうして、お店のないところ―駅前の公園の辺りまで―ずんずん歩いていると、

「キョウさん、ユリアちゃん!」

という、透き通った声が聞こえてきた。

私は思わず足を止める。つられて止まったキョウが、その声のした方に目をやり、やれやれと大仰にため息をついた。

私もキョウの視線を辿る。

そこには、金髪を持つ吸血鬼と猫のハーフの美青年がダッフルコートに身を包み、嬉しそうに駆け寄ってくる姿があった。

「わぁ、奇遇ですね。
僕、運命感じちゃうな」

ジャックが人懐っこい笑みを浮かべる。
きっと、どんな人でもこんな猫が懐いてきたらイチコロなんじゃないかと思う。

そのくらい、放っておけない仕草がとてつもなく得意なのだ。

青い瞳が優しく揺れている。

「感じなくてもいいぞ」

キョウはそっけない。
彼のポケットに入れている手の温度とはまるで違う、低い温度でそう言い放つ。

「どうしたの、ジャック。
綾香は?」

彼が一人でいることが不思議な私は、そう声を掛けた。

ジャックのブルーサファイアを思わせる美しい瞳が、即座に影を帯びていく。