さらに、翌朝。

つまり12月2日。
教室に着いたら、女の子たちが固まって何事かきゃぁきゃぁと騒いでいる。

「あ、百合亜。
ちょっとちょっと!」

現役女子高生の私としては、そういうのに弱い。
つまり、皆が固まっている所には足を運びたくなる習性があるのだ。
まぁ、夏の夜にライトに集まっていく蛾を想像したりしてちょっとだけ空しくもなるけれど。
しかたない、しかたない。

「何ー?」

朝からテンション引き上げて、話についていきますよ、私☆

「それがさ、昨日。
綾香が、吸血鬼に噛まれたんだって~」

「それが、すっごくカッコよかったんだって」

「いいなぁ~!!ヴァンパイアかぁ。
最近ハマってるケータイ小説もヴァンパイアものなのよ♪
私ちょっと、憧れる☆」

……ど、どうなってるんですか、この教室?!

私は耳を疑う。
吸血鬼に逢ったってだけでも、真冬の怪談話みたいで気が乗らないのに。
皆して、きゃあきゃあと色めきたっているのは、相当におかしくない?

そ、それとも普通なの?
箸が転がっても可笑しい年頃の娘たちは、吸血鬼の噂ですらも可笑しいのだろうか。

むむー。

「で、綾香はどうしたの?」

もう、私の無理矢理引き上げたテンションじゃおっつかなくなっていて、若干低めの声で聞いてみる。

「やだなー、吸血鬼に噛まれたんだから貧血で寝てるに決まってるじゃない☆」

『インフルエンザにかかったんだから高熱で寝てるに決まってるじゃない☆』っていうのと同レベルの社会的常識であるかのように論じるのは、いかがなものかと思いますけど?

「じゃあ、誰がその情報を?」

私は首を傾げる。綾香が学校休んでいるなら、分かるはずがない。