そうして、私はやはり自分に向かって伸ばされるその手を掴んで外に出る。

（少なくともマイナス30度までは）寒さなんて感じない魔王様は当然の如く手袋なんてしないので、私も右手だけは手袋を外す。

外に出て、歩くたびに少しずつ体温の下がっていく私の右手を、キョウは遠慮もなく自分のコートのポケットへと突っ込んだ。

昨日までの葛藤とか、今朝のうんざりするような軽口の応酬とか。

そういうの全部抜きにしても、長いリーチを持っているくせに私を気遣ってゆっくり歩いてくれるコイツのことを多分私は好きなんだろうなと、整った顔をうっかり見上げてそう思ってしまう。

「どうかした？」

心当たりなんて１ミリもないような尊大な表情で、キョウが私を見下ろす。
彼の向こうに見える冬の柔らかな日差しが眩しくて、思わず目を閉じてしまう。

駅に向かう途中。
丁度高校の前くらいで、彼は私に触れるだけのキスをした。

「別に」

ぷいと顔を背ける私に向かって、キョウの笑いを含んだ低い声が心地よく響く。

「ユリアは照れ屋だなー」

ここまで毎日呪文のように聞かされると、自分でも照れ屋なのかもしれないと思いたくなってくるから不思議なものだ。



一種の刷り込みかしら、ねぇ？