私の心のツッコミなど、当然のように無視で(もっとも、私がそれを口に出したところで三倍のセクハラ発言が戻ってくるだけでどうせ無視されるに決まってるんだけど)私の髪に唇を落とすキョウ。

「この前、ポニーテールが結えなかったお詫びに今日の髪のセットは俺がしてあげるね」

と、ご満悦に私を鏡台の前に連れて行き、丁寧にヘアスタイルを整えてくれる。

うーん、何故だろう。
私以上にコテを巻くのが上手いんですけど。

まるで、笑麗奈並に細かく、私の服まで指定してくる。

そういえば、キョウっていつだって高級でおしゃれな服をびしっと着こなしているわよね。
全て黒色なのは、きっとこだわりなのだろう。

放っておいたら、人のクローゼットの中まで、高級服とちょっとエロティックな下着でいっぱいにしてくれるのだ。

あ、放っておいたら、なんて言ったけど。
止めてもやります、コイツの場合。

お人形遊びを覚えたばかりの女の子のように、楽しそうに私の服を選んでは着せていく。

「完成」

鏡の向こうには、少し背伸びしたおしゃれな服に身を包む私が居た。

「ユリアは可愛いんだから、こうやってちゃんと着飾らないと」

「着飾っている子の方が、好き?」

私の目の前で遠慮もなく着替えているキョウに向かって聞いてみる。
彼は、手を止めて振り向いた。

そうして、この時間にしては珍しいほどの茶色い瞳で蕩けるように笑う。

「ユリアだったら、何でも好きだよ。
裸だって。
いや、むしろ裸で乱れているほうが断然……」

「いい、もう」

聞くんじゃなかった。
頭を抱える私を見て、キョウは。
また、楽しそうに笑うのだ。
その姿からはやっぱり、千年分の苦労なんて透けて見えたりは、全然しない。

どちらかといえば、苦労しらずの二代目若社長のような。
そんな雰囲気しか漂ってはいなかった。