拗ねた私の心も、熱々のパンケーキとそれに乗った生クリームが見事に溶かしていってくれる。

淹れたての紅茶の香りが部屋に満ちて、休日の朝を見事に演出していた。
キョウは柔らかい笑顔で私を見ている。

とても、魔王様と一緒に食べているとは思えない。
優雅なモーニングだ。

「ユリア、人が折角作った夕食、食べてくれてないでしょう?」

「ちょっと、食欲がなかっただけだもん。
今晩食べるからいいのっ」

「今晩は作ってあげる。
明日も、ね」

「……どうして?」

忙しいんじゃないのかしら?
私は首を傾げる。

「土日は一緒に居てくれって泣いて頼まれたから☆」

キョウの秀麗な顔に得意そうな笑みが浮かぶ。

うーん、泣いて頼んだ覚えはないけど。
まぁいっか。

私の口許がほころぶのはきっと、この、甘さ控えめの生クリームのせいだと思う。

でも、絶対にカロリーオーバーなんですけど。

「だけど、キョウが作ってくれる料理って絶対に私にはカロリーオーバー気味じゃない?」

作ってくれる人に失礼だとは思うけど、言わずには居られない。

だって、二人で暮らし始めてからこの半年で、私、確実に3キロは太っている。
同じ料理を食べて彼だけ太らないのが不思議だったけど。
間違えなくこの悪魔はそれを軽く消費するほど、魔界で動き回っているのだ。


キョウはくすりと笑う。

「ヘンゼルとグレーテルだよ。
太らせてから、ユリアを食べるの。
よろしくね」

冗談めかして言うと、キョウはあのお話の魔女のように私の指を触って

「まだまだかなぁ~」

と、おどけてみせた。