何があったか、なんて言われても。
何もなかったのだから私は答えようがなくて、口を閉じた。

そのまま、キョウの広い胸に顔を埋める。
彼が纏う黒いシャツはいつだって、清潔な匂いしかしない。

本当は、血にまみれているのだろうか。
さっきまで、硝煙の匂いがしていたのだろうか。



「淋しかった」

多分。
本当に淋しいのはキョウのほうだ。

巡り合っても、違う願いばかり口にするマドンナ・リリーの生まれ変わり。
通じ合っても、すぐに消えてしまう寿命の短い人間。

そんな、幻のようなものを追いかけて。
そんな、儚い願いを叶える為だけに大勢の霊を調伏して。

どうして、何でもなかったみたいにいつも笑っていられるのか。


私の想像ではとても追いつかない。

だから、何て言葉を掛けたら良いのか見当もつかない。

正直。
どこから話を切り出していいのかだって分からなくて。


疲れきっているキョウの寝息が私の頭の上から聞こえてきても尚。
私の心は迷いの森を彷徨い続けていた。