「ユリア、風邪引くよ」

背中で優しい声がする。

身体がふわりと浮いた気がして、私はゆっくり瞼を持ち上げた。

ものすごく至近距離にキョウが居て、そうであることはどこかで分かっていたはずなのに、私の心臓はドキドキと激しい音を立て始める。

長い睫、筋の通った鼻梁、紅い唇。

「大丈夫だから、寝てなさい」

低い声が耳に心地よい。

「駄目、着替えないと。
服がぐしゃぐしゃになっちゃう」

「脱がせてあげるから、気にしないで」

私をベッドに寝せながら、からかいの色を帯びた意味深な口調でキョウが言う。

普段なら言い返すような戯言なのに、胸が詰まって言葉が出ない。
神経質そうな長い指先が、私のブラウスのボタンを器用に一つずつ開けていく。

三つ目まで開けたところで、キョウはおもちゃに飽きた子供のように突然それを止めた。
私の隣に身を投げ出し、ベッドサイドのライトをつけた。

「キョウ?」

剥き出しのキャミソールもそのままに、私は身体を捻ってキョウを見上げた。
綺麗な顔は感情を隠すのに向いているのかもしれない。
だから、いつだってつい……。

キョウは疲労の滲んだ顔で、一瞬瞳を閉じたがそれを無理矢理あけて私を見てくれた。

「何があった?」

闇を閉じ込めたような、底の見えない黒い瞳が薄明かりの下、私に向けられる。

温かい大きな手のひらがそっと、私の頬を包み込む。