レンデルのお屋敷は 街の中心から少し離れていた。

濃いカカオ色の煉瓦壁、さらに濃い 闇の木立色の屋根。
それらに際立つ いくつもの白い窓枠。
館の背中は、数限りない木々が 静かに守っている。

広い前庭の緑は 整然と手入れされていて、
火を点したみたいに 鮮やかな深紅の薔薇が
ここはわたしのものなのよ、と
知らしめすよう 咲き誇っていた。


あたりの邸は どれもみな 広い土地を有していて、
“お隣さん”までは 一生懸命に走っても
数分はかかってしまいそうだった。
たぶん レンデル家くらい大きいはずの建物が
まるでおもちゃみたいに見えた。




このとき、僕は 見たことのないたくさんに囲まれて
ますます震えがひどくなっていた。

院長先生が あれほど丁重にもてなしていたのだもの、
どんなにか強く、高い人たちなんだろう?

3人が着ている服だって、
院長先生の めいっぱいのおめかしより
ずっとずっと 柔らかそうで、細かで。



「お帰りなさいませ」

馬車の停止と同時に 館の扉が開いた。
黒服に白の前掛け姿の 初老の女性が迎え出た。

「旦那様、あちらから、荷が着いたとの
 連絡がございました」

男の人はひとつ頷く。

「奥様、イスタンブールより敷物が届きました。
 ベネットがお待ち申し上げております」

「すぐ行くわ。メアリ、鍵を持ってきてちょうだい」

「かしこまりました」


小さく頭を下げて、メアリと呼ばれた女性は 僕に目を留めた。
両方の眉を ほんの少し持ち上げた。

「メアリ、ルウだよ!」

「さようでございますか」

「あの、こ、こんにちは」

がちがちな僕の挨拶に、メアリは片眉だけを さらに持ち上げた。