パディが 気分を変えてくれたおかげで、
帰り道の僕は すっかり元気に戻ることができた。

ロウェスターでの新しい体験は、僕の中に
命の勢いが見せる 眩ゆい音や色、匂いや感触、
――喜びや楽しみや、ちょっぴりは悲しみや苦しみや

一瞬たりとも止まらない、賑やかな現実を感じさせた。

旦那様たちみたく、馬車で走り抜ける街並も
それは確かに 存在するのだけど、

僕は(僕にふさわしく)歩いて回る景色が好きだな、と思った。



前庭でパディと別れ、僕は庭の奥へ進んだ。
今頃、坊ちゃまは 外でお茶を召し上がっているだろうから。

ところが、奥にしつらえられた いつもの陶磁の卓には
誰もついていなかった。お菓子の用意さえ、ない。

(坊ちゃま、お部屋にいらっしゃるのかな?)



屋敷へと引き返す途中、ほっそりした人影に 足が止まった。
一人、ジョイスが 大きなシーツを取り込んでいた。

「……た、ただいま!」

ロウェスターでもらった元気が、背中を押してくれた。

ジョイスは 太陽の匂いを両手に抱えて振り返り、
灰青の目で僕を素通りし、そして 戻っていってしまった。

まるで、
今の音は 風が薔薇を揺らしたのだ、と納得したみたいに。





ジョイスは、どうして僕を嫌いなんだろう?
ううん、パディが言っていた。
誰にでも あんなふうだ、って。

どうして?



家族が ばらばらになるってこと。



僕も同じだよ?
そして、僕もあなたも、今はレンデル家にいられるじゃないか。

ここへ来た最初の日、僕はとても怖かった。
メアリの正しい言葉が とても悲しかった。

けれど、そういうものばかりで
胸をいっぱいに 塞いでいてはいけない、って思うんだ。