欲しい品を伝えて、他の良い品を見定めて、
予定の金額に収まるように 上手に交渉して、
時々 皮肉めいた 噂話なんかを挟みながら、
最後は 店員さんとにこやか顔で お金をやりとりする。

次から 一人で任せてもらえるよう、
僕は真剣に観察して、一生懸命覚えた。



空のバスケットが 色とりどりの野菜でいっぱいになって、
パディの もう片方の腕が むっくり膨らんだ紙袋に
占領された頃、僕たちは ロウェスターの
ずいぶん奥にまで 足を運んでいた。

ざわざわは少し弱くなり、代わりに
紅茶や焼き菓子の 甘い匂いがそこらから漂う。


「次で最後よ。旦那様からのお使いなの」

そう言ってパディが指したお店は、
これまでと違って、お客さんが一人もいなかった。

扉の先は さまざまな書物ばかりで、
乾いた紙の 柔らかく軽やかな匂いがした。

ベストのボタンが飛びそうに でっぷりとした眼鏡の主人が
こまごまな品物を従えて、ゆったり迎えてくれた。


「やあ、パディ。いつものでいいかい?」

「こんにちは、スミスさん。ええ、お願いします」

主人は傍らの僕にも 愛嬌を見せて微笑み、
奥へ引っ込んでしまった。

「パディ、行っちゃったよ?」

「旦那様の好きな雑誌は、店表に置いていないの。
 ドイツから わざわざ取り寄せてるのよ」



いくらも経たずに戻ってきた主人は、
包みを差し出しながら ちょっと困った顔をした。

「最近、向こうと行き来する船が減ってきたよ。
 持って行くのも、持って帰るのも、
 これからは ますます難しくなると思う。
 便がある限り、お応えしたいけどね……。
 レンデルさんに お伝えしてくれるかい?」