僕とパディは ようやく隣家にさしかかった。

全体的に 重々しい色調の レンデル家に対して、
このお屋敷は、淡く水色がかった白壁に 深緑色の屋根だ。
門から玄関まで 整えられた植物で満ちているのは同じ。

凛とした香りが漂う、白い花が いっぱいに咲いていた。


「ルウ、ジョイスのことは 気にしないでね」

突然 さっきまで心を占めていた 雲を引き出されたので
僕はびっくりした。


「彼女、今朝 お前を無視したでしょう?
 あたし、見ちゃったのよ。
 ジョイスは、誰にでも あんなふうだから、
 そんなに 気持ちを落とすことないわ」

「……どうしてジョイスはそうなの?」

問うと、パディは 立ち止まった。
ちょうど、白壁のお屋敷の正面だった。

「ジョイスはね、元々 ここに住んでいたの。
 没落した商家の お嬢さまなのよ」

そうして しんと佇むお屋敷を見やる。

「没落って、分かる?」

「……いいえ」

「家族が ばらばらになるってこと」





『ツカマエロ!』

『マワレ! ソッチヘイッタゾ!』

『ドコニイッテモ、ドウセ オナジダロウ?』




僕の頭の中で 一番古い 鮮明な記憶。

一生懸命 かきわけてみても、
僕が生まれたとき そこに確かにいたはずの母や
何となく覚えている 兄弟たちの声なのに、その姿は
ちっとも 思い浮かべられない。


家族が ばらばらになるってこと。


ジョイスが味わった悲しみを 想像しようとしてみても、
僕にとって、それは ぼんやりと あるかないかの
幻みたいなものにしか 昇華しなかった。


白壁のお屋敷は ただ しんと、
優しく 太陽を照り返しながら
僕らのはるか向こうを 見やっていた。