優しくくるむ言い方じゃなかったから、
アンナの言葉は 直線に 僕の奥底までゆき渡った。

僕については、当たっているから反論しない。
けれど、アンナが 何を考えて
なぜ「世界を見て」いるのかは、
ちっとも分からなかった。


同じく不思議なのは、彼女の在りよう。
一生懸命な坊ちゃまを 「聴くに堪えない」だなんて。

奥様と坊ちゃま、じかにつき従う相手は違っていても、
アンナも僕も レンデル家に属する身じゃないか。

彼女は 僕よりお姉さんだったけど、パディよりは幼かった。
アンナの冷淡な調子は、単なる“背伸び”の範囲を
越えている気がした。


天使と見知り置けたこと、嬉しかったよ。
でも僕は ほんの少し腹が立ったんだ。
乱暴な物言いもそうだけど、もうひとつ。


メアリから 言われたこと。
「いつも素直にしておいで」
それって、気持ちを安らかに保つことでしょう?

そうしていれば、何事も 柔らかに受け止められる。
小さなことも喜びになるし、怒りはちょっとで済む。
穏やかな心で生きていけるんだ。

なのに、アンナったら!




あの邂逅のあと、いろんな思いが僕の中で駆け巡った。
次は 一方的に遮断されるんじゃなく、互いに言葉を交わして
聞いたり、聞いてもらったりしたいと思った。

だけど、今の僕じゃあ だめなんだ。

何もできていないままじゃあ。


そう思い至って、僕は我に返った。

レンデル家の中で 何かできるようになる、というのは
アンナと話すため以前に、
僕が 当たり前に考えなくてはならないことだ。


拾い上げ、名前をくれた坊ちゃまに
僕は 捧げられるものを見つけなくちゃいけない。