「ルウ、おはよう」

「おはようございます、坊ちゃま」


レンデル家での僕の役目は、
本当の本当に 坊ちゃまの遊び相手だった。
お小さい坊ちゃま、と言ったけれど
僕だって同じくらい 小さかったからだろう。


だけど、一日中 駆け回っていられたわけじゃなくて。
僕の出番は たいてい、次々にやってくる
いろんな先生たちの お勉強の合間。

ひとときのお茶を楽しむ坊ちゃまに控えて、
それから 少し追いかけっこをしたり。

夜、坊ちゃまが眠るまで 側にいて
お話の相手をしたり。


僕にとっては 充分 身に余る幸せだったけれど、
奥様が さらにもったいない言葉をくださった。

「ルウ、ハイネとともに お勉強なさい。
 お前は ものを知らなければいけないわ」

僕は 部屋の隅に置いてもらい、
先生たちの様々なお話を 聞くことができたのだ。
もちろん、全部を理解できたわけじゃないのだけど。


ここへ来て ほどなく分かったのは、
レンデル家は ロウェスターの中心部に
紅茶を扱う老舗を持っているということ。

イングランドにおいて、紅茶は欠かせない品だから
つまり、レンデル家はとても裕福な商家だということ。

旦那様と奥様が 日中、街へ出向かれるせいで
坊ちゃまのために、僕が引きとられたらしいこと。




美しい少女・アンナもまた、
僕と同じような経緯で レンデル家に仕えていた。

彼女は坊ちゃまより、奥様の話し相手が 務めだったようだ。
だから、同じお屋敷にいても いつでもどこでも
彼女の姿を 見つけられるわけではなかった。
むしろ、見つけられないのが普通だった。


“アンナ”という名を知ったのだって、
ずいぶん あとのことなのだ。