「そういえば…席替えがあるらしいよ?」

菜緒が弁当の蓋をあけながら言った。


「…え?」

私は、菜緒に気付かれる位に顔が強張った。

しかし、弁当の中身に気をとられている菜緒は、その瞬間を見ていなかったから良かった。

「そ、そうなんだ…。」

何でもない様に振る舞うと、妙に声が高くなった。

「うん、近くの席になるといいね!」

期待をこめた菜緒の一言が、とても複雑に感じた。

「それに…早川君の隣で可哀相だな、て思ってたし。」

チマチマとおかずをつまむ菜緒に、ドキッとした。

『早川君』

て単語がでるだけで、ビクついてしまうのを辞めなければ。

「う、う~ん…」

微妙な返事をした時に、ふと隣で気配を感じた。

「あっ!」

小さく菜緒が言うと、まずい、という表情をみせた。

そこには、財布を忘れて取りにきた早川君が…。

「…。」

ちらっとこちらを見たか見ないか、「ふぅっ」とため息みたいなものをついて、早川君はまたドアの方へ歩いていった。