縁談が決まってからは早かった。一ヵ月後にはラナルフがスウェイルに訪問するということで、国内は勿論リーシャの周りも騒がしく、慌しいものだった。

 
 ラナルフが訪問する当日は一段と騒がしく、リーシャは朝から侍女達に拘束されて無理に着飾されていた。侍女達の働きによって何も気にすることのない普段とは違いきっちりとお姫様といった感じに仕上げられたリーシャは、予定通りならばあと半刻もしないうちに到着するラナルフを国王である父の隣に座って待つ。
 王城内は質素倹約を心がける普段ではありえない程豪華に装飾され、一応の体裁だけは守っていた。


 ただ待つというのも疲れるが、今回の主賓であるリーシャがまさか消えるわけにも行かず、どうでも良いから早く来て欲しい、と願っていると噂をすれば影というわけではないが、外が騒がしくなったのが微かに耳に入った。この騒ぎぶりからして、到着したのだろう、とリーシャが思っていたところに国王へと連絡が入った。


 「直ぐお通ししろ」

 「は、畏まりました」


 命令を受けた彼は礼をすると直ぐに駆けていく。彼が扉に居る者たちに話しかけているのが見える。普通の姫君ならば、逸る気持ちで迎えるのだろうけれど、全くといって良いほどそういう感情がリーシャには湧かない。
 自分のことであるのに、どこか他人事の様に思えてならないのだ。ただ、仮にも大国の王子が訪問に来るというのに気だるそうに迎えたのでは礼を失する。扉が開く前に、そして父から注意される前に、とリーシャは背筋を伸ばして、姿勢を正して前を見た。