「私を馬鹿にしてる?大国の第一王子の名前くらいは知ってる。
 アスタールだろ?アスタール・ベッドナー・グレイリー」

 「ああ。
 ところでリーシャ、僕の名乗った偽名は覚えてるかい?」


 問われ、リーシャは眉を顰めて口を開く。


 「アスタ・ベッドナー」

 「ああ、ラストネームまで覚えててくれたんだね。嬉しいよ」

 
 どこまで本気なのか、そう言って嬉しそうに笑うアスタにリーシャは渋い顔をする。


 「興味が無いことには無頓着なリーシャがたった一週間しか一緒に過ごさなかった僕の名前を覚えててくれるなんて、感動だよ」

 
 脱線してばかりのアスタにリーシャはあきれ交じりに額を抑える。
 偽名を覚えているか聞かれた時点で、アスタールとアスタが同一人物だと気付かなかったことを笑われるのかと思えば、そんな様子も全く見せないアスタがリーシャには全く掴めなかった。

 
 「……アスタ、結局何しに来たんだ?」

 「勿論、リーシャに会いに来たんだよ。
 幾ら待っても会いに来てくれないから」

 「……確か、アスタール殿下は婚約者がいたと思うんだが?」

 「うん、そのことについては感謝してるよ」

 
 微妙に、どころかちっとも話の噛み合っていないアスタにリーシャは大きく顔を歪ませる。