「お前っ…!」

 「お前じゃない。アスタ、ってさっきまでちゃんと呼んでくれてたのに。寂しいな」


 わざとらしく顔を伏せるアスタをリーシャは睨む。
 不機嫌さを全く隠さずに睨んでくるリーシャにアスタは屈めた背を伸ばし、リーシャから離れる。
 離れたアスタは厭味なくらい優雅に微笑んで、口を開く。
 

 「そんな怖い顔しないで、可愛い顔が台無しだよ。
 それにね、今回は完全にリーシャの勉強不足。自分が婚約している相手の兄の顔くらい知っておくべきだ」
 
 「当日、会うまで婚約者の顔も知らなかったのに?」


 リーシャの言葉にアスタは数度目を瞬かせて驚く。


 「……流石リーシャ。そこまで調べてないとは予想してなかった。

 ところで、幾らなんでも名前くらいは知っててくれたんだよね?」