「ご忠告、痛み入りますわカトリーヌ様。
 カトリーヌ様がそんなに私のことを心配して下さっているだなんて、とても有難く、嬉しく思います。
 ですが、カトリーヌ様もご存じの通りスウェイルは小国で、大国であるグレイリーからの婚約のお話をこちらから御破談にすることは出来ませんの。こうして既に一度受けてしまっていますし、これから婚約破棄という形にするとなると賠償金がかかってしまうでしょう?
 スウェイルには大金を払うこともできませんし、何より私の一存ではどうにも…」


 最後に困ったように目を伏せ、声音を小さくさせればそれらしく見えるだろう。
 案の定、カトリーヌは信じた様でリーシャに向かって口を開く。


 「そうでしたわね、ですが、貴女もラナルフ様にそう言わないからこうして私が毎日ご忠告差し上げることになるんですわよ?
 きちんとそのお話、ラナルフ様にしてるんですわよね?」

 「ええ、勿論ですわ。ですから、私のことはご心配なさらないで?」

 「そうね。貴女も平気そうだし今日のところはここで失礼させて頂くわ。この後、王妃様と会う約束もありますし」
 
 王妃と会う、というのは未だに国王夫妻は愚か、ラナルフの家族の誰とも面識のないリーシャへの牽制なのだろうと思う。
 それは解るが、こうも毎度言われれば気にしなくなるというもの。
 元々、国王自身はどうであれ、王妃から好かれていないのは知っているし、認められていないのも知っている。性格を云々といわれるのならともかく、国で気に入らないというのなら無理を押して会いに行くより、あちらが会ってみようと思えるまで待つ方が何かと動きやすいというもの。
 カトリーヌが踵を返し、去っていくのを見ながらそう、考える。

 「全く、毎日毎日良く飽きないものだな。いい加減、私ではなく奴を説得した方が早いと気付けば良いのに」

 
 図書室の扉が閉まる音を聞いて、ため息交じりにそう呟く。
 そうしてカトリーヌが去ったことを確認すれば、やっと本に集中できる、と視線を下へと落としたリーシャに別の声が掛かる。


 「ラナルフの所に行かないのかい?」