「本当に鬱陶しい方!
 毎日毎日、そんなに勉強をしたってラナルフ様には振り向いて頂けないのに、何をそんなに頑張ることがあるというのかしら?ラナルフ様の隣ではなく、あんな下々の者たちが住まうような部屋に入れられた時点で気付けないだなんてよっぽど理解力が無いのではなくて?」


 甲高い女の声が静かな図書室に響く。


 「どうやってラナルフ様の弱みを握ったのか存じませんが、そんなことをしてまで婚約を強いる卑しい女性はラナルフ様の好みじゃありませんわ。
 お可哀想だけど、早々に婚約を破棄して自国にお帰り遊ばした方が賢明というものですわよ?」


 しゃべり続ける派手な令嬢の目の前でぺラリ、とわざとらしく音を立ててページを捲るのはリーシャ。
 つまらなそうな顔をして捲る分厚い本の内容は面白い。薬草それぞれの相性等が細かく書かれていて興味のあるリーシャとしてはこの上なく興味深い内容なのだ。
 が、にもかかわらずリーシャが仏頂面になるのは隣で毎日飽きもせずに同じことを言いに来る令嬢。ラナルフによれば、ラナルフの母親でもある王女のお気に入りであるという隣国の第三王女、カトリーヌ。隣国であるからなのか、第三王女だからなのか、かれこれもう1ヶ月以上滞在しているらしい。

 
 「ちょっと、聞いてますの?!人の話もきけないだなんて、人生を一から学びなおした方が宜しいのではなくて?」


 蔑む言葉は殆ど疑問形で、同意を求めてくる彼女を無視するのは疲れる。
 そもそも、疑問形ではあるがこっちが頷くと思っているのだろうか、と半ばあきれながらリーシャはカトリーヌをちら、と見る。
 無視を決め込めば決め込むほど、カトリーヌは絡んでくるし、それだけ自分の時間が削られる。

 
 リーシャは本から顔を上げ、しっかりとカトリーヌを見つめる。
 そして、カトリーヌが口を開く前に申し訳なさそうな表情を作って、騙る。