結局、あーだこーだとぐだぐだというラナルフがリーシャの自室を後にしたのは4時過ぎ辺りのことだった。
 全く、午後には顔合わせと花嫁修業も兼ねてグレイリー国へとラナルフと共に発たなければならないというのに、迷惑この上ない王子だとリーシャは一人、ベッドに身を沈めながら思っていた。
 確かに今日発ってしまえば周りには従者や何かがいてあんな話はできないのだろうが、それにしたってもう少し何かやりようが無かったのかと思う。


 そんな調子だったから、リーシャの機嫌は悪く家族との別れは平常でもそうであったと予想はつくが、あっけないほどさらりとしたものであった。


 「こっちの落ち度で婚約破棄、なんてことは無いようにするのよ!」とラナルフの前なのにも関わらず言ってくる母。
 今更取り繕う必要も無いが、わが親ながらここまで大っぴらに本人を前にして告げるのもどうかと思う。母の言葉にはグレイリーの従者達の目もあるから、ただ微笑んで返してみせる。

 「追い返されるときは何かお土産を買ってこい」などと抱擁を交わした時に小声で言ってくる兄たちに「薬草で良いなら」と囁き返す。


 それにしても、見送りにきたというのに婚約破棄されることが前提で話してくるとはどういうことだろうか、とリーシャは笑顔で自分を見ている家族達に一瞥だけして、ラナルフが既に乗り込んでいる馬車へと乗り込んだ――。