ラナルフの後に大人しく可愛らしい王女を演じ続けるリーシャが続く。ラナルフに与えられた部屋へと向かう道中は二人の間に会話等なかった。


「一体、何のつもりだ!」


 部屋に入るなりラナルフは声を荒げてリーシャへと言う。


 「何が?昨日の約束通り大人しくサインしたのに何を怒ってるんだい、君は」

 「その事じゃない!っていうか、お前、解ってて言ってるだろ」


 目の前にはにやにやと、嫌な笑みを浮かべながら聞いてくるリーシャが居る。絶対わかっているのに、とラナルフは唇を強く噛んでリーシャを睨む。


 「まあ想像はつく。どうして部屋に戻れば、と言ったかだろう?」

 
 解ってるんじゃないか、とラナルフは眉を顰める。


 「退屈だったからだよ。書類のサインは終わって、婚約は無事に成立したのに、あれ以上あそこに拘束されるの嫌だった。だから君をだしにして逃げてきた。君が私を誘わなくても、どうせ君がいなくなればすぐにお開きになるのは目に見えていたからね」

 「お前…約束は覚えてるだろうな?」

 「そこまで記憶力は悪くない。大人しく婚約を成立させること、そして、君の仕事の邪魔をしないこと。どこか間違っているかい?」

 「いや、間違ってない」

 「私たちが早くあの場を去ったことで君の仕事の邪魔になっているとは思わなかったんだが、邪魔だったかい?」

 
 邪魔もなにも、二人が書類にサインし終わっている時点で役目は終わったも同然なのだから邪魔になるはずもない。
 ただ、リーシャの思惑通りにすべてが進んでいるようで気に喰わないのだ。こんなことは今までなかったから、余計に。黙っていると、リーシャがまた口を開く。


 「とにかくだ。私は約束を破っていないんだから、君も私の要求をきちんと守ってくれよ?」

 「解ってる。約束は守るさ」


 頷いて見せると、リーシャは話はこれで終わったと言わんばかりに部屋を後にする。
 リーシャが出て行った扉をラナルフは睨んだまま、深く溜息を吐いた。