「参考までに……、どの辺りが愚かだったのか聞かせてもらおうか」


 怒りたいのを抑えて話しているのだろう、ラナルフの左手は拳となって僅かに震えている。それに目をとめるが、気にした様子もなくリーシャは険しくなっているラナルフの双眸を見遣る。


 「婚約前に私への婚姻理由をばらしたところだよ。正式な書類へのサインは明日、私が君の理由を聞いてサインしない、とごねるとは思わなかったのかい?」

 「……それは俺も考えたが、どうしても今晩中に知っておきたいことがあった」

 「私が他の姫君達の様に君になびかないかどうか、かい?」

 「それはまだ言ってなかった筈だが?」


 怪訝そうに眉を顰めるラナルフにリーシャは声を立てて笑う。


 「本当に馬鹿かい、君は。女心を気にしなくて良いから私を選んだ、というのなら女心を押し付けない女が欲しいということだろう?君に惚れていなければ女心を押し付けることもないんだから、君に惚れない女を選んだといってるのと同義だと思うんだけど?」

 「そのよく回る頭と口も魔女たる所以か?」

 「さあね。気がつけばそう噂されていただけだ。さっきも言った通り私は薬草に興味があって良く森に行くからね、そちらの方が有力だと私は思うよ」

 「それで、随分と脅しめいたことを言っていたがごねる気は無いだろうな?」


 そんなことは許さない、と言わんばかりに睨みを利かせてくるラナルフにリーシャは口角を上げ、笑んで見せてから口を開いた―――……。