「ゴミ、とってあげるから目を閉じていてね。間違っても動いちゃだめよ。
顔に傷がついたら大変でしょう?」

 ダヴィンチの描く聖母をも凌ぐ魅惑的な微笑みを浮かべる巫女さんの背後に、どす黒いオーラのようなものが見えるのは、目の錯覚だろうか。

 目の錯覚ついでに言えば、強張った殿のビロードのように滑らかな顔にはゴミどころかホコリ一つ見つけられない。

「わ、わかった。死んでも動かないぞ!!この命、巫女ちゃんに預けた……」

 と、眉根を寄せながら瞼を伏せるこの様は、たぶんコントだ。

 そう、コントなんだ。この部屋に足を踏み入れた時から、全てコントだったんだ。うん、矢が刺さったのだって、手の込んだCGなんだ。

 そう自分を納得させようとした時、衝撃の光景が繰り広げられた。

 ブチ!!

「いっ……」

 殿の顔が歪む。
 あまりの早業に僕の目は残像しか捕らえられなかった。

 巫女さんのしなやかな手が、殿の鼻をかすめた……ように見えたのだが。

「とれたわ。殿、もう大丈夫よ。あっちに行ってていいわ」

 巫女さんは、鏡を指差す。
 一体何がとれたのだろう。

 殿は、顔から離れたゴミには、興味がないようで「ありがとう」と爽やかな微笑みを残して鏡の世界へ帰って行った。

「速記ちゃん、ちょっと……」

 金づちと五寸釘を手にした速記さんを手招きする巫女さん。

「なんですか……巫女名誉顧問……」

 ゆらりと立ち上がる速記さん。
 とりあえず、釘は置きましょう?

「これ、いらない?」

 巫女さんは、手を上に向けて広げた。その中央には、黒いものがごっそり……

「そ、それは……」

「そう。殿の鼻毛」

 は、鼻毛えぇぇぇ!?
 さっきの早業、殿の鼻毛を抜いたんですか!!

 ……しかも、そんなにたくさん。