そ、そこは、大いにかまおうよ!!
 つうか、構わないとまずいと思うよ、人としてっ!!

 表情筋が今まで経験したことないくらい痙攣する僕の前で、巫女さんは今にも涙が零れてしまいそうだ。

 ぼ、僕が悪いのか?
 訳のわからない罪悪感にうちひしがれそうになった時、巫女さんは視線を膝の拳に落として、小さくため息をついた。

「これだけ言っても駄目なのね……」

 もしかして、今までの説得だったりします?
 怖っ!!
 ある意味恐怖だよ、このお方!!
 これだけ言われて、首を縦に振る人がいたら僕、裸踊りでもなんでもします。

「しょうがないわ。殿、ちょっといいかしら」

 殿はこの部屋の大きな鏡がいたく気に入ったらしく、その前で手は腰、一人ラインダンスの練習に励んでいた。
 片足を天井に向ける度、白い歯をキラリ輝かせている。

 と、いうことは、殿はアッチの世界にお出かけ中というわけで、もちろん、巫女さんの小鳥の囀りのような声はシャットアウト。
 世界が違えば、聞こえる音の周波数も違うようだ。

 しかし。

「殿、顔にゴミがついているわよ」

「な、なんだって!?」

 目の前に鏡があるというのに、巫女さんの前にすっ飛んで来た。

 殿の場合、普通の人と鏡の使用目的がまるで違うようだ。二日目にして、もう殿の奇行にいちいち驚かなくなってきた僕は、胸を張って『人間』として生きていけるだろうか。