「じゃあ、僕の運は、これからうなぎのぼり?」

「いいえ。まだ達筆君には、何十体も霊がついているもの。
……達筆君、結婚してくれない?」

 え、ええええええええ!?

 やっぱり、タイミングおかしいですよ!!
 いや、タイミングとか、もう、そういうの全部超越しちゃってるよ?

 身の毛もよだつ恐ろしい告知の後に、な、なぜ結婚?
 僕の運の話は、いったいどこへ旅に出たの!?

「ねえ……私じゃダメかしら……?」

 ダメとかダメじゃないとかの問題じゃないよね?

 もしかして物陰にカメラマンとか、ガンマイク持った人とか、スケッチブック持った人とか、どでかいヘッドフォンした人いちゃったりします?

 僕が返事した途端、『ドッキリ大成功』って書かれたプラカードが出てくるってパターン?

 にしても、この企画書書いた人、頭悪いんじゃないの? 巧妙の「こ」の字もない騙し方だよね?
 というか、全く人を騙す気ないでしょ!!

 慌てふためく僕を尻目に、巫女さんは正座した膝の上で両手をもじもじさせている。

 ええ!? 今の本気で……?

 心を落ち着けようと周りを見回せば、どこから出したのか湯気がのぼるお茶をすすっている空手さん。
 自分の髪の毛をブチブチ抜いて、それでワラを黙々と縛り続ける速記さん。

 殿は、大きな鏡に映る自分に向かって、指鉄砲で狙撃している。銃口という名のひとさし指に息を吹きかける角度は、そんなに重要ですか?

「お婿に来て……お願い」

 可愛い!! 可愛いすぎる!!
 もろもろ問題はあるけど、その上目遣いは殺人的に可愛い!!