「達筆君、今まで相当運悪かったでしょ?」

 巫女さんの声に僕は、ギョッとした。巫女さんとは、昨日出会ったばかりで運の悪いところなどは、見せてないはずなのだ。

 ……まあ、殿に出会ってしまった事が、今年1年で最悪の出来事なのかも知れないが。それでも、昨日、部室のドアに派手に頭をぶつけられて「考える人」になったのは僕ではなく、殿だったし。(今までああいう場面は、常に僕のものだった。)

「ど、どうして、そんなこと……」

「だって顔に書いてあるもの」

 巫女さんは至ってにこやか。
 その笑顔たるや「○○ちゃんのこと好きでしょ」「だって顔に書いてあるもの」と語る恋愛のエキスパートのそれとなんら変わらないように見えるのは、僕の目が可笑しいからなのだろうか。

 というか、運の悪さって顔に出るものなのか?
 だとしたら、これはとんだ悪口だ。

「霊が運を吸収しちゃうって言うのかしら。霊のとりつかれると運はどんどん悪くなるのよ」
 
 はあ?

 今、衝撃的なことを言いましたよね?
 それって、僕の人生に関わる重要なことですよね? 
 だから、笑顔で言うのは、やめて!!

 ちょっとまって!!
 巫女さんの言葉が正しいとするならば……、

「僕の運の悪さは、全て霊の仕業だったということですか?」

「そうね……」

 どうしてここで、うっとりするんだああ!?
 巫女さんは、朱をさしたように頬を染めて、細枝に積もった雪のような白い指で口元を隠す。磨き上げられた黒曜石の潤んだ瞳で僕を見つめる。

 魔力だ。妖力でもいい。くぎづけになってしまう。
 問題はタイミングだけだ。このタイミングで何故うっとりするのか。

 ……そのタイミングが一番重要な気がするのは、胸の奥にしまっておこう。