並んで歩くとよくわかる。この人の容姿がどれだけ優れているか。

 1年の教室が並ぶ廊下ですれ違う女子は、ポッと顔を赤らめながら殿を凝視するし、あちこちから黄色い声が聞こえてくる。

 女子の心理なのか、この美形教師の名前を記憶に留めようとしてるんだろう。ネームプレートをチラッとみる。すると今度は目を丸くしてもう一度見る。いわゆる二度見、というやつだ。

 まあ、そうだろうな。だってフルネームが書いてあるべきそこには『殿』の一文字だけなのだから。

 しかし、そんな可愛らしい女子の反応も階段に差し掛かると違ってくる。後ろから「ナルだ」「あ、ナル、今日は普通のスーツじゃん」「げえ。ナル見ちゃったよお、今日は嫌なことがありそー」なんて声が聞こえる。

 ナル。十中八九、ナルシストの意だろう。そして、それは隣を歩く殿のことだと、今までの会話で安易に予想がつく。

 しかし、さすがは殿のあだ名がつくほどだ。歩く姿は百合の花。まったく堂々としたものだ。こんなに陰口を叩かれていても気にする素振りさえ見せない。

「いやあ、人気者は辛い。みんな俺のことを見てヒソヒソしてる。
告白したいなら、堂々と言えばいいのにね?」

 き、気づいてない!?

 チラリと白い歯を見せてはにかみ笑いを見せる。こんな爽やかかつ、艶やかな笑顔で言われてしまったら、「悪口ですよ」なんて到底言えまい。

 ……なんて幸せな人なんだ。

 陰口を叩かれることは全然羨ましくないが、それを褒め声に変換できてしまうあたり、ある意味羨ましい。