巫女さんは動じることもなくにこりと笑ってみせる。

「今度聞いておきますね」

「そうか、助かる」

……分からない。
今、目の前で交わされている会話の趣旨が、俺にはさっぱり分からない。

そんな俺の動揺など歯牙にもかけない様子で、殿は、無造作に立てかけてある姿見鏡に映る自分の姿に見蕩れていた。
黒い自慢の前髪を、何度も手櫛で整えて一人悦に入っている。

それは、入部して以降ずっと抱いていたこの先輩への想いが、俺の中で一つの形になる瞬間でもあった。

……アホだ、真性のアホだ。ナンセンスとか言うレベルではない。もう、手の施しようのないアホなのだ。この、超がつくほどのイケメンは。そして、ナルシスト。つまりただのナルシストじゃなくって、アホがつくほどのナルシスト。

俺が、せめて後輩でなくて同級生なら言葉にして伝えてあげられたのにと思うと、残念でならない。

「で、その自縛霊にお話を聞くためにもやらないといけないことがあるんです」

至極真顔で巫女さんが続ける。

「なに、なに?」

と、むしろ殿は乗り気だ。

「除霊部を作りたいんです」

……なんですって?
耳を疑ったのは、もちろん。4人の中で俺だけだ。
巫女さんは『甲子園を目指すんです』と意気込む高校球児並に澄んだ熱い視線で殿を直視しているし、その隣で腕を組んだままの剣道さんは、うんうんと強く頷いているし、言われた殿は……

一瞬首を傾げて、それから。

「そこまでダイレクトなネーミングはちょっとアレだな。
生徒会に反対される気がする。
せめて、風水研究部くらいにしときなよ」

と、的外れなアドバイスを、真面目な顔で口にしていた。