俺たちは、本殿も拝殿も素通りし、奥にある社務所へと足を進める。

その間、飽きもせずに殿の軽口は続いていた。
まぁよくも次から次へ、言葉が浮かんでは消えていくもんだ。
慣れているのか、剣道さんはそれを綺麗に流している。絶妙なコンビネーションで繰り広げられる雑談は、そこらの芸人の話術よりずっと優れていた。

たどり着いた小さな社務所には、折りたたみ式のいすがいくつもあり、小奇麗なテーブルの周りにそれを並べた。

お茶はテーブルの上、白いポットに入っている。
それを、各々が紙コップに入れる。

誰か一人がやってくれるわけじゃなくて。まぁ、セルフサービス、みたいな?

ようやく皆がお茶を一口のみ終わった頃、ふぅ、と巫女さんは息を吐くと、思いつめたように眉根を寄せる。おお、美女は悩む姿も色っぽいと何かの本で見たけれど、本当だなと実感した。

「絶対にうちの高校いるのよね」

ごくりと俺は唾を飲む。
真夏ならともかく、秋の神社で何を言い出そうとしているのか。

「自縛霊」

ためも、間もなくあっさりと、巫女さんはそう言う。
別段、人を怖がらせようと思って怪談話を始めたわけではなさそうだ。

どっちかというと『あの店、この前新作入ってたのよね』と、お気に入りの洋服店の話をする女子高生のような気軽さだ。
いや、殿と同い年ということであれば、巫女さんも紛れもなく高校三年生でそこに該当する、のではあるが。

白い小袖に緋袴という衣装のせいか、それとも元来の彼女の資質なのかとても落ち着いて見えるのだ。
その巫女さんが真剣な顔で語りだしたあまりにも突飛な話に、俺はおろか殿までも難しい顔をした。

一瞬後、珍しく真剣な顔で殿が口を開く。きりっとした眉がその凛々しさを引き立たせている。

「巫女ちゃん、一つ聞いてみるが自縛霊から見ても俺はイけてるだろうか。
つまり、もちろん、カッコイイという意味で」

……いろんな意味でとても、殿と巫女さんは同い年には見えない。いや、むしろ二人を同じ「人間」という種族に分類してよいのかどうか、もはや俺には自信が持てない。