「はぁ、剣道さんと巫女さんですか」

俺は意表をつく自己紹介に、あっけにとられて突っ込むことすら忘れてしまった。

普通、初めて出会った人には本名で紹介しあうのでは?と、言う間も与えてくれないほど自然な自己紹介だったのだから。

「ま、自己紹介なんてどうでもいいだろ。
何で俺らを呼び出した?」

自己紹介にすらなってないそれを、勝手にそうだと決め付けて、境内のほうに足を勧めながら、殿が剣道さんに視線を投げて聞く。

「お願いがあるって言ったじゃない。もちろん、巫女ちゃんからの、ね」

剣道さんが早口で言う。殿のペースに巻き込まれたくないというアピールに違いない。本人に通じていないのが残念だが。

一方、巫女さんは、その紅い唇でにこりと微笑んだ。
怖いのは、その黒目がちの瞳が一切笑ってないことだけど、幸い、殿はそういう細かいことを気にするような男ではない。

「何かな、巫女ちゃん☆」

場違いなほどの馴れ馴れしさいっぱいに、口を開く。
ちらり、と、巫女さんの視線が剣道さんに行く。それは、本当にこの男に頼ってよいのかと、この期に及んで尚質問している表情だった。

「大丈夫、大丈夫。何せ、殿の口癖は『俺にできないことはない』だからねー」

剣道さんが軽い感じで言って、にこりと笑う。
笑うとなかなかにチャーミングなので、俺の心臓がわずかばかり跳ねた事は、この際、誰も聞いてくれないのでなかったことにしておこう。