「いらっしゃい、バナナくん」

そんな、汗で水溜りでも出来ようかという俺に、にこりと手を伸ばしてくれたのがその、女神のような巫女さんだった。いや、巫女さんに向かって女神のようなって例えは、許されないのかもしれないが。とにかく、今まで俺の人生ではすれ違ったことさえないような、極上の美人がにこやかに微笑みながら俺に手を差し伸べてくれていたのだ。

艶やかな長いストレートの黒髪、卵型といって問題ない輪郭、そこに綺麗に収められた黒目がちの大きな瞳、それを飾る長い睫、すらっとした鼻梁に、ふっくらしていて品のある紅い唇。

すげぇ。
こりゃ、神が創った奇跡だぜ!

「どうも、はじめまして」

俺はゼェゼェ言いながらも、手を握る。
はぁー、柔らかい~っ。
永久にこの手を放したくないという、身分違いの欲望が一瞬俺の中に生まれるが、すぐに手を放した。ここで嫌われるなんて、辛すぎる。

「アンタがバナナって言うんだ。つか、なんで?」

すぐ隣で、これまた別の女性の声。
ようやくそっちに目をやると、キツイ目をしたショートカットの女性が腕を組んでぐぐっと俺を睨みつけていたのだ。

「なんでって……殿が、先輩が勝手に呼んでるからで」

ここで先輩を殿と呼んでいいのかどうか、ほんの一瞬逡巡する。

「ああ、殿が、ね」

しかし、ショートカットの女性にも、殿が誰のことか分かったようなのでほっと胸を撫で下ろした。

「そういうことになると、私が剣道で彼女が巫女ね。コイツとは残念ながら同級生」

肩を竦めながら、<剣道さん>がそう言った。
女性にしてはやや低めのハスキーボイスがなかなか似合っている。

……っていうか、剣道さん?
なんですか、その、安直過ぎるネーミングっ