っつか、これで美女が居なかったら殿の背中に思いっきりダイビングしてその骨折ってやるー!とまで思った、その時。

華麗な仕草で殿は立ち止まり、神社の鳥居を潜った。
じ、……神社の鳥居っスか?

俺は目を疑う。どうして美女を求めて神社なんかに入るワケ?
こんな色気の無いところ……。いや、色気どころか人気(ひとけ)だってないだろ。

しかも、鳥居をくぐると、やたらと石畳の階段が続いているのは、どういった嫌がらせなんだろうか。もしかして、運動不足のデブお断り!っていう無言の看板だったりするんだろうか。
軽やかなステップを踏んで階段を上っていく殿。その三段後ろを必死で上っていく汗だくの俺。

「もう。どんだけ待たせたら気が済むのよっ」

だから、頭上から降ってきたその声に、正直げんなりしていた。
ここまで頑張って、また説教かよ?ってね。

「悪いね、ツレの足が遅くってさ」

殿は悪びれることもなく、遅刻を俺のせいにしている。
嘘だ。
俺、精一杯走ったぞ?

「ツレ?」

声がまだ上から降ってくる。
何せ俺はまだ、階段の上にまで辿りついていない。

「そう、バナナって言うんだ」

……普通、人の名前を紹介するときは本名で紹介するんじゃね?
俺の背中をアリエナイという名の衝撃が走り抜けていく。

「ふぅん、バナナって言うんだ」

しかも。
それを受けた女性の声が、納得していたから怖ろしい。
本名を聞けよ、本名を!!

しかし、階段の頂上までたどり着いたときには俺は息も切れ切れでとても自己紹介をする余裕がなかった。

それに。
それに、だ。
殿が言うように、そこにはなんと!
和装姿の、っていうか正確には巫女姿の。
絶世の美女がいたのだから。

俺が言葉を失ったとしても、誰からも責められる言われは無いのだ。

へ?笑った膝に手を乗せながら、必死に息を整えようとゼェゼェ言ってただけだろって?
うっせーなぁ、もう!!
そんな君にも俺の汗で水溜りが出来たことまでは想像できまい!どうだ、まいったかっ。