「と、ところでどうだったんですか?」

俺は焦って話を逸らす。

「何が?」

「殿のこと、自縛霊さんかっこいいって言ってました?」

そんなこと、別に微塵も気になってないのに、話を逸らそうと思うと勝手に口から出てくるから怖ろしい。

「うん、聞いたよ」

……は?
自分で質問をしておいてなんだが、あまりにも問題ない感じで巫女さんが頷くので呆気に取られた。

聞いたよって、あんた。
誰に?まさか、自縛霊?

「普通は、人間なんて一皮向けば骨なんだから、霊ってあんまり容姿には興味持たないのよね。
でも、殿の場合はその骨までかっこいいんだって。
取り付くならあんな人がいいって言ってたわ。ナルシストかどうかは霊にとっては問題外ってとこみたい」

昨日見たドラマの内容を友人に説明するかのように、淀みなくさらりと話して来るのはどうかと思う。
それも、うっとりするほど形の良い唇で。
瞳は、漆黒の闇を閉じ込めたように美しく輝いている。もちろん、殿みたいに迷惑なナルシスト度合いも一ミリも感じさせない。
素敵な人だ。

……なのに、発言内容、相当おかしいんですけど。

時間があったら、ここで頭を抱えて立ち止まり、もう一度その内容について吟味したかった。
でも、これ以上殿を待たせておいたら、ろくなことにはならないのだ。

俺はやむなく脚を動かす。
ハンカチは、朝から拭いすぎた汗でそろそろ役に立たなくなっていた。