「バナナ」

低い声が俺を呼ぶ。

「はい」

思わず反射的に返事をしてしまう。反射って怖いなぁ。

「今すぐ巫女ちゃんを、俺のマイスウィートハニーをここに呼んでこいっ」

えっと。
聞きたいことはいろいろあった。言葉のおかしさはさておいて。
昨日まで見知らぬ他人だったのに、いつからそんな関係に?とか。

でも、一番知りたいことはそもそも、巫女さんってどこのクラスなんですか?!
俺が分かっているのは3年生ってことだけだ。

「えっと、巫女さんは何組、ですか?」

いつの間にか張り巡らされている重苦しい緊張感の糸を縫うように、俺は言葉を搾り出す。

はん?と、不機嫌を絵にしたような瞳が俺の小さなハートを貫く。

「俺が知るわけないだろ」

「……じゃあどうやって」

「片っ端から3年生の教室当たっていけばいいじゃん。いつかは当たるって。
あ、バナナは意外と運が悪いから多分最後の教室だな。
もう、午後の授業始まってたりして」

ハハハ、と、なんてことないみたいに軽く笑い飛ばすのはやめてほしい。

「もう、放課後でいいじゃないですかっ。会長だってここに居座られたら迷惑ですよね?」

そろそろ昼休みが本当に終わる。
俺はわずかばかり焦っていた。授業をサボることには異存はないが、こんなのに付き合わされて授業をサボるのは嫌だった。
っていうか、どんなに嫌いな授業でも、ここにいるよりかははるかにマシに思える。