「と、殿。
お前、何しに来た?!」

ぎくり、と、平々凡々を絵に描いたようなめがねをかけている生徒会長の顔がぎくりと引きつる。

っていうか、生徒会長も「殿」って呼ぶのかー、この人のこと。
一瞬俺は呆気に取られた。

「出入り禁止って言っただろう」

箸を手に持ったまま、立ち上がった生徒会長が殿ににじり寄られて、じわじわと背中が壁にあたるまで後ずさっていく。
ちょっとしたコントでも、ここまでリアルに馬鹿馬鹿しい様子は描けまい。

そのくらいのスローペースで、生徒会長が後ずさっていく。
別に、刃物をつきつけているわけでもないのに。

うーん、まともな人は避けたくなるようなアホってことだろうか。
殿が、ツン、と、拗ねたような顔を作る。
しつこいようだが、どのような表情も顔だけ見れば一級品のイケメンだ。

間違えなく、毎晩鏡の前で様々な表情作りに余念がないね、この男。

「お前、バッカじゃない?
殿と生徒会長じゃ、どう考えたって殿のが上だろ?」

えぇ、殿ってただのあだ名じゃなくて身分だったの!?
俺は耳を疑った。

「だから、無効ね、無効。
生徒会長の権限は殿にまでは及ばないってことさ」

ニっと殿が笑う。
白い歯が、また、キラリンと音を立てて零れた。

「じゃ、じゃぁ何しに来た」

生徒会長のトーンが下がる。

えぇ?!
認めたの?
認めちゃったんですか、自分より殿のほうが身分が上だって事を?!

俺はくらりと頭が痛くなる。
この人だけはまともだと思ったのになー、一分前に。