「なにぼっとしてんだよ、ほら、早く早く」

にこりと笑って、殿がぐいと指を指す。
もちろん、親指の腹は天井を向いているし、ニカっと笑った白い歯はそのまま――つまりCG等の加工一切なしで――歯磨き粉のCMに使ってもらえそうなほどにキラリンと光っている。
正直、そんなポーズ、漫画でしか見たことがない。

「バナナってば。
早く、早く」

遠足に行く前の子供のようにはしゃいでいる殿がその親指の腹で指している場所は、生徒会室の扉だった。

な、何ゆえ生徒会室?
まさか、生徒会長は俺以外にありえねぇだろ~!!とか、叫びだして、生徒会室を占拠する気じゃ……。

テロだ、テロ。
地味な校内テロが今から始まるに違いない。
朝から不運だとは思っていたけど、これが極めつけかぁ……。

怖ろしい妄想が俺の頭の中をものすごいスピードで駆け巡っていく。チーターだってここまで速くは走れないんじゃないかっていうくらいのスピードで。

「なにぼっとしてんだよ。可愛い巫女ちゃんのためなんだからさ、ほらほら☆」

俺は背中を押されて、仕方なく殿より一歩先に生徒会室へと入っていった。

「し、失礼します」

「誰、あんた?」

食事中の生徒会長が、真顔で首を傾げる。
普通だ、ああ。
普通の人がこの学校にも居るんだ。
俺は何故だか涙ぐみたいほど嬉しい気分でいっぱいになった。

「えっと」

自己紹介しようとした矢先。

「俺の手下でバナナって言うんだ」

ひょこっと、俺の後ろから殿が姿を現した。
うーん、俺の体型がデブで自分が丁度隠れられるからって、それを悪用したな?コイツっ。