―Side 稲葉翼―



『あの子、ホント頑張ってるよな』

昼休み
結衣ちゃんを見送った僕は休憩室へと入る


そうすると僕の同期、
津川 豊(ツガワ ユタカ)がそんなことを言う


『結衣ちゃんでしょ?』

そうすると津川は頷く


『いいよなぁ~
あの子の担当のお前は。』


なんで?そう聞くと


『だって我が儘言わなさそうだし、若いじゃん』

津川は笑って言う。



『バカじゃん、津川

我が儘言わないに限ったことはないけど、でも…』

僕は言葉を切る


『でも、何も分からないから。

結衣ちゃんのキモチ…分からないから。


それだったら我が儘言ってくれたほうが全然楽だよ』


僕の患者さんは年配の方が多い

だから結衣ちゃんくらいの年齢の子は珍しくて。


新鮮なキモチになる。


大抵だったらあのくらいの年齢の子は

そこが痛いだのリハビリなんてやりたくないだのと駄々をこねる。


でも結衣ちゃんは違う。

僕の言ったことにはい、と答え真面目にやる。


たまに反抗的な目でやりたくないと訴えるけど決して言葉には出さない。


だから、分からないんだ。


結衣ちゃんが何を考えて

何を思っているのか。