顔を上げた途端、1粒の涙が頬を伝った。

それを稲葉さんに気づかれないように急いで拭う。


『弱音…吐いてみたら?』

あの言葉がこんなにも胸に響くとは思わなくて。


『じゃあまた明日ね!!』

笑顔で私を見送る稲葉さんが少しだけ、憎かった。

だって、あんなこと言うなんてズルイじゃん。


私のツボ、知ってるみたいで。

病室に着き、ベットに横になるとさっきのあの言葉が木霊する。


そのうちにジワジワと涙が溢れてきて。

誰にも見られないように横を向き、タオルに顔を押し付けた。



稲葉さんの…バカっ!!

せっかく泣くの我慢してたのに…!!


声が漏れないように歯を食いしばり

目を赤くしないために涙はなるべく溢れないように堪えて。


私ってホント…不器用だな、なんて考えていた。


もしあそこで、


「もうリハビリなんてしたくない」

そう言っていたら、稲葉さんはどうしただろうか


きっと、悲しむよね

いや…もしかしたら


『じゃあやらなくていいよ』

そう笑って言ってくれたかもしれない。


今となっては分からないけど、

でも、稲葉さんなら笑って


『リハビリなんてしなくていい』

そう言ってくれる気がする。